高加速スイッチとは
一部の社局の車両には運転台のわりと目立つ場所に高加速スイッチがあって、運転士によっては遅延時などにこのスイッチを投入して加速度をアップさせて走行する、そんな様子もよく見られるようですね。
「高加速スイッチ」と呼ぶ社局もあれば「限流値増スイッチ」と呼ぶ社局もありますが、私がいた会社では高加速スイッチとなっていたのでこちらで呼んでいきます。
モーターの回転数が上がれば電流が下がり、その下限値(限流値)に達したら抵抗を一個抜いてモーターにかかる電圧を上げる、これを繰り返して速度を上げていくのが抵抗制御の車両で、電車の場合は自動で進段していきます。
高加速スイッチを入れるとモーターに印加される電圧が通常より高くなり、それで通常より加速が速くなる……、というのが超簡単な高加速スイッチの仕組みです。
※わかりやすくかなり端折っての説明です……
起動時から高加速スイッチを入れると、1ノッチの全抵抗挿入状態の場合は変わりはありません。全部の抵抗を入れてモーターにかかる電圧は同じですから。
ただし2ノッチ以降は加速が急激に高まりますから、乗り心地を相当悪くなります。
毎日のように車内で立って利用している人にすれば、いつもよりきつい加速のためにいつも以上に踏ん張らなきゃいけなかったりするわけで、常用すべきスイッチではありません。
高加速スイッチはなぜあるのか
- 遅延時に少しでも加速を高めてダイヤを戻すとき
- 地下で火災等の緊急時に素早く脱出するため
- 特定の路線で加速度を高める必要があるため
などもっともそうなことが述べられていますが、少なくとも私がいた会社においてこのような使い方はしないというか、してはいけないことになっていました。
〇急の車両は運転台がデスク型になって以降、座ったまま触れる位置に高加速スイッチがあり運転士が投入している様子だったり、高加速スイッチ投入時と思われる電流計や速度計の映像がよく流れてきますが、友人たちに聞いたところでは〇急でも高加速スイッチの勝手な投入はダメというか、本来の使い道ではない。
監督者がきちんと指導できていないのか、運転士が理解していないのか、または無視して勝手に使用しているのか、もしくは今はルールが変わって運転士の判断でいつでも利用して良くなったのか……。
元々の高加速スイッチを使う場面というのは、所定のMT比で運転できない場合に加速力を確保するためのもの。
4M4Tが所定の編成の時に、オーバーロードなどによって一つのユニットがダメになって2M6Tで車両振替が可能な駅まで運転する時とか、車両故障で遊車扱いになった編成を推進運転で引っ張ったり推すときなどに使うのが所定です。
遅れている時とか、後続の電車から少しでも早く逃げ切ろうとするときに使うものでは決してありません。こんな扱い方を認めている社局があるとは私には思えないのですが、まさか〇急では今は認めちゃったの?
古い車両にも高加速スイッチは付いていました
他社の車両のことまで知らないのですが……。
私が運転士時代に担当したすべての車両に高加速スイッチが付いていました。
もちろん古い車両にも。ただすぐ見えるような場所ではなく運転士配電盤に設けられていたので、もしも使用するとなると立ち上がって手を伸ばして投入する必要がありました。
※NFBだったので指でずっと押さえておく必要はありませんでしたが
異常時に備えて設けられている高加速スイッチですから、古い車両であっても設置されていたわけです。
ちなみに
〇急に勤めていた私のおバカな友人の一人が3000系の高加速スイッチを入れて三〇から運転したところ、アンメーターは800A近くを指すわ、いつものモーター音とはまったく違う唸るような音を醸し出すわで怖くなって、春日〇道に停車中にすぐに切ったなんて話をしていました。本来高加速スイッチを使う場合には運転指令への報告が必要なんだとも言ってましたが……。
新しい車両にも高加速スイッチは付けられていますが、新しいだけあって賢いのですよ。
従来車の場合は入れれば印加される電圧が上がるのでそのまま加速が速くなるのですが、新しい車両の場合はその時の車両の状態を演算するらしく、通常時に投入すると加速が極端に悪くなります。
そんな話を聞いていたので、車両課の係員が添乗しているときに(その当時の)最新型の車両で高加速スイッチを入れてみると、アンメーターが指す値が半分以下に。
「好き勝手に入れられなくなりましたね」
と車両の係員が笑いながら話してきました。