Xでこんなポストが流れてきました。
これに対して1997年に起きた「大月駅列車衝突事故」を引き合いに出す方もおられましたが、私は実家近くで起きた1984年の「阪急神戸線六甲駅列車衝突事故」を真っ先に思い出しました。
大月駅や阪急六甲駅での衝突事故に共通するのはATSを切る(解除、開放)ことで赤信号でも冒進してしまい、走行中の他の列車に衝突したものです。
〝切れなくするのは逆に問題が起こることがある〟
という鉄道に詳しそうな方の発想に対して、鉄道に詳しい方々が反発したという構図です。
私は私鉄勤務でしたので旧国鉄・JRとはATSに関する環境が違いました。
1966年11月30日に運輸省(現 国交省)からATS整備の緊急指示が出され(運転本数や速度によるる区分あり)、翌1967年の通達では速度照査機能と運転中のATS常時投入が義務付けられています。
この中でもATSの常時投入が私鉄のATSの最大の特徴で、会社によって違いますが、ブレーキハンドルを差し込んだ時やマスコンキーを差し込んだ時、前後切替スイッチを「前」にした時など、その運転台で運転操作をするには必ずATSを投入しなければいけない状態として整備されています。
昔は自動投入ではなく別途設けられたATS電源スイッチを入れる車両もありましたが、私がいた会社のすべての車両は、ATSが入れられていないとブレーキが緩解しない設計で、ATSの入れ忘れ自体が発生しない構造になっていました。
ATSを切って運転しなければいけない事象ももちろん発生します。
ATSの装置自体が故障すればフェールセーフの考えからブレーキが緩みません。
こうなると当然ですがATSを切って(開放)して運転することになります。
原因は本当にいろいろとありましたが、ATS論理装置の故障や地上側の装置の故障のほか、車両のATS受信用のアンテナが小動物と接触した時に壊れて(曲がって)ATSを開放なんてこともありました。
なのでATSを切れなければ運転継続が不可能と言う状態もあり得るので、Xでの主張が全くおかしいとは言いません。
だからと言って運転士の判断だけでATSを切るなんてことはもってのほかだし、勝手に切って運転し事故を起こせば運転士に刑事罰っていうのには、そこは違うぞと思うわけで。
ATSはとにかく各社で仕様が全く異なります。
相互乗り入れをしていても、他社用のATSも積むことで解消していることが多く、基本の部分ではよく似ていても細かい仕様についてはバラバラですし、ATSに関する規則も各社でかなり違うと思います。
私がいた会社の場合、ATSをただ切るだけではブレーキは緩解しません。
なので開放スイッチを操作することになりますが、このスイッチを操作するには車掌キー(忍び錠)でボックスを開ける必要がありますが、車掌キーではこのボックスを閉めることができません。
同じ鍵穴ですが、車掌キーとは形状の違う鍵でなければ閉めることができません。
なぜこんなことをしているのかと言えば、無断で使用させないためです。
無断で使えばボックスが開いたままになりますからバレちゃいますからね。
ATSを切って運転するには、運転指令への報告と監督者の添乗が必要でした。
そして添乗する監督者はボックスを閉める鍵を持つ者で、ATSを切る必要が無くなれば直ちに閉めて鎖錠するとなっていました。
ATSを切れば信号を冒進したって警報も鳴らないし、ブレーキが自動で入ることもありません。
それだけではなく、私がいた会社の場合は同時に戸閉保安装置も解除されるので、速度5キロ以上になってもドアを開けることができます。
結局は速度に関するあらゆる装置がフリーな状態になるわけで、やみくもに切って運転と言うわけにはいきませんでした。
極端に言えば、許可も取らずにATSを切って運転するだけで処分対象だし、ほぼ間違いなくその後は運転士にとどまらせてはくれません。
ATSを勝手に切って運転し事故を起こせば運転士に刑事罰っていう考えですが、事故を起こさなくても無断で切れば処分されて当然、そういう運転士は会社としてはいりませんから。
ただATSを切って運転し事故を起こせば刑事罰って、何を基準に刑事罰に問うと言うのかわからないし、運転士に責任のある事故(有責事故)を起こせばATSの入り切りに関係なく起訴されますから。
しかしXのポストやネット上の記事は首を傾げるようなものや、眉唾物の書き込み、根本から間違っていることを堂々と主張するなど、ある意味ネット上こそ魑魅魍魎な世界だなと思います。
鉄道の現業で現役で働いているという方から、そんなことはない!と批判されることもありますが、あなたの会社と私がいた会社では取扱いが違うんですよ、あなたの会社が鉄道業界におけるルールの中心じゃないんですよと思うことも多々あります。
〝私がいた会社では〟のように会社を限定して書いていても同じ調子ですからね
┐(´∀`)┌ヤレヤレ
そういえばXの某鉄会社の公式アカウントで鉄道用語として、この言葉はどんな意味を持つでしょうなんてやってますが、あれだってその会社と関連会社などで使っているだけで、鉄道用語と言うよりは社内用語なんですけどね。
すごく話が脱線しましたが……。
ATSは現状でも切って運転することはできます。
ただATSを切らなけらば運転できないと思い込むような状況に置かれている、と言うことは、焦っていて冷静な判断ができない時のはず。
だから信号の現示を確認もせずというか見間違いして冒進し、本来ならば助けてくれるATSを切っていることから事故一直線な状況、ということ。
だから反発を招いたわけですね。