「運転士が発見して急ブレーキをかけたが間に合わなかった」

運転士
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人身事故でも車との衝突でも、鉄道の事故に関する報道ではよく、

「運転士は急ブレーキをかけたが間に合わなかった、と話しています」

という決まったフレーズが出てきます。

事故を起こした運転士がマスコミの取材を受けたりはしないので、会社の広報などがマスコミに発表したものが報道されるわけですが、

「運転士は前をよく見ておらず、気付いたのは目の前だったので間に合いませんでした」

なんてことが発表されることは無くというか、「本当に前を見ていない」とか「居眠りしていた」なんてケースだと、当たった時の音と振動で気付いて慌ててブレーキを入れるはずです。

※それさえ気付かずに居眠り運転していて、続行の運転士が軌道内の人に気付いてというケースも何件か見聞きしていますが……。

 

〝急ブレーキをかけたが間に合わなかった〟

という決まりきったセリフですが、電車のブレーキ特性から言って間に合うはずがないのです。

概ねですが、100キロで走行中に非常ブレーキを入れると350~400mほどで止まります。

当然勾配や曲線、天候や乗車人員によって変わってきますけど。

※ちなみに自動車は100キロからの急ブレーキで112m程度

100キロで走行中に前方の踏切に人が立ち入っていることを発見します。

見通しの良い直線で線路内に仁王立ちするように立っていれば発見は容易ですが、踏切から侵入していても警報機などの陰で見えないなど、実際のところ300mとか400m手前で見つけることは意外と難しい。

物陰に誰かがいることが視界に入り、気付いてすぐに非常ブレーキを入れたとしてもその踏切までに止まることは無理でしょうね。

もちろん速度が低ければ間に合うかもしれません。

それでも微妙にカーブしている箇所のほうが実際には多いし、様々な構築物によって視界が遮られる場所のほうが多いですし。

 

私も走行中に非常ブレーキを入れたことは何度もあります。

でもおかしいと思って非常ブレーキを入れても、一度もその現場までに止められたことはありません。

幸い人と列車との接触事故は経験せずに済んでいますが、放置された自転車とか飛来したゴミとの接触はありました。

 

いつもとバラストの形状が違うなぁと思いながら接近していくと、犬走り付近にうつ伏せ状態になっている人が目に飛び込んできた。

まずいと思って非常ブレーキをかけたところで止まるわけはありません。

非常ブレーキを入れながら運転台からのぞいていると、うつ伏せになっていたのはカメラを構えている撮り鉄。

心臓がバクバクしながら頭に血が上って……。

接触しなかったからいいようなものの、運転台下のステップに頭がコンッて当たっただけでアウトですからね。

急ブレーキをかけたが間に合わなかったと、あの世でマスコミ発表を聞かずに済んでよかったねとしか……。

 

「もっと急ブレーキをきつくして人命を救えるように!」

なんて考える方もいるとは思いますし、実際に運転していて非常ブレーキを入れた時には、

「早く止まれよ! 本当にプアなブレーキだな!」

なんて毎回思っていましたが、非常ブレーキが突如入ると今でも車内では、将棋倒しにならないように吊り革に捕まり踏ん張って何とか体勢を維持しようと必死になっていますが、今以上に非常ブレーキを強くすると今度は車内で負傷する方が増えるかもしれません。

今の非常ブレーキでも、車内で転倒して通院する人が出ることもありますからね。

それに非常ブレーキを強くすれば、その分列車の経済性も失われかねませんから、今の非常ブレーキの強さってちょうどいいのかもなんて思ったりもします。

 

「運転士が発見して急ブレーキをかけたが間に合わなかった」

ではなく実際には、

「運転士が発見したところで今の非常ブレーキで止まれるはずもない」

というのが実際のところなんですよね。

2019年4月の記事を再編集しています


 


 

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