車掌や運転士が子供に手を振れなくなった

運転士
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駅停車中はホッとできる瞬間です。
電車が最も安全な瞬間は動きていない時ですから。

列車を担当していてどこかの駅に到着します。
運転士はこの止まっているときって本当にホッとできる瞬間です。
そして車掌に対して早くドアを閉めろよ!これ以上遅らせるなよ!
って思うこともある瞬間なのです。

 

こんな時にふとホームのほうへ目をやると、小さな子供がこちらをジーっと見ています。
中には止まっているときから、また中にはこちらがノッチを入れた瞬間から手を振ってくることがあります。
こういう時はもちろん小さな声で
「バイバイ」
と言いながら手を振り返します。

 

その時の子供の笑顔ってホントにつぼみの花が一気に開花したような、何とも言えない気持ちにさせてくれるのですよ。
子供の横にいるお母さんも申し訳なさそうにお辞儀をしてきたり、子供と同じように満面の笑顔になったり。
正直言ってイライラしていた気持ちが収まります。

 

ところが私が運転士の末期のころ(2010年以降)ですが、いつものように子供に手を振っていると、その様子を見た客が本社へクレームのメールを入れたのです。
私は翌日になって指導担当助役に呼ばれました。

「実はなあ、運転士が横を向いて前を全く向いていなかったとクレームが来たんだ」

そう言われた私はすべてを話しました。
小さな子供が手を振ってきていたから、こちらからも手を振り返しただけだと。
すると、

「そのこともメールには書いてあるのだが、そんな一人ではなく乗客全員の安全を考えて前を向くべきだと」

私が言われるよりずっと以前、おそらくここ10年ほど(2000年以降)でしょうか。
車掌や運転士が子供に手を振る行為が危険行為だとクレームが入ったり、乗務員同士の敬礼やホームにいる係員への敬礼も危ないとクレームが頻繁に入るようになりました。
ホーム上の係員に敬礼をした瞬間に、視線は本来監視しなきゃいけない箇所を外れているので危険だというものです。

 

たしかにまったく視線が外れていないのかと聞かれれば、少しの間は外れていますよ。
でも手を振る方に全神経が集中しているわけではなく、広い視野の中には本来監視しなければいけないところも入っています。
少しでも変だと思えば、とっさにブレーキを操作するくらいはできますよ。
でもこの手のクレームを入れる人たちに、こういった返答をしても取り入ってもらえないのです。
そして必ず本社サイドが

「こういうことがないように、指導教育を徹底します」

って返答をするんですよ。
こんなこと言われたら、本当に子供に手を振ることができなくなるんです。
だって指導担当助役が本社へ報告するのですが、当然運転士は誰でどのように指導したかが記載されています。
今度同じクレームが来たら、いわゆる日勤教育で乗務停止になっちゃいますからね。

それに、必ず本社の総合職の連中がきちんと教育できたのかを確認するために、しばらくの間はチェックしに来るんです。
客室に乗客を装って乗り込んできてじっと観察する〝裏面添乗〟で。

 

そのあと助役になるまでの間に、何人もの子供が手を振ってきました。
でも無視しました。
本当にきつかったですよ、心が。

 

子供に手を振ることに関してうるさくなかった時代のことですが、
「運転士さん(車掌さん)に手を振ってもらいなさい」
お父さんやお母さんが子供に言い聞かせるような言い方をしながらも、実際には乗務員に聞こえるようになかば〝強制的〟に我が子に手を振れと言うような人、昔からたまに遭遇していました。
あくまでサービスでやっているだけのことで、他人に命令されて手を振るようなものではない。
子供に罪はないけど、こういうお父さんやお母さんからの〝命令〟は昔から無視していました。
すると、
「今日の運転士さん(車掌さん)は手を振ってくれないね」とか、
「感じ悪いね」
なんて言われるんです。
そういう感情にさせたのはあなたなんですよって、言いたい気持ちを我慢していましたよ。

 

2018年1月30日の記事を再編集しています。


 


 

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ご覧いただけたら幸いです。


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