2024年4月6日、上信電鉄の第4種踏切(警報機も遮断機もない踏切)で当時9歳の女児が踏切内で電車と接触して死亡した件で、当該列車を運転していた運転士が2024年12月に書類送検されていたという。

私は数十年間鉄道の現業職で働いていたことから、現場で働く者の視点で綴ってみたいと思います。
なお、X(旧Twitter)上では一緒に散歩していた親類や自宅にいた父親に対していろいろな意見が飛び交っていますが、私はそのことについては何も言いません。
聞いた、聞かなかったの話ですので第三者がとやかく言うのもちょっと違うかなと思いますので。
書類送検って言うのは警察から検察へ事件に関する書類が送られたってことで、警察での捜査は終了してあとは検察に任せる。
検察は起訴して裁判となるのか、不起訴とするのかを判断するわけですね。
なので起訴される前段階なので今は被疑者ということですね。
被疑者なんて呼ばれ方もあれですが、今の段階では〝疑われている人〟であってそれ以上でもそれ以下でもないのですが、仕事として電車を運転していてその作業について疑われるというのは、そりゃあいい気分のはずがない。
運転している側からすれば、勝手に踏切に入ってきておいて……、と思ったって何も不思議ではないですから。
私だったらバカらしくなって運転士なんて職業は辞めちゃうだろうな。
今回書類送検にまで至ったのは、遺族側は警笛なんて聞いていないと主張しているためですね。
第三者の「警笛を聞きました!」って言う証言があれば今回の件はそれで終わるのですが、誰からも証言を得ていないんでしょうか。
乗務員をしているとほとんどの会社では、
「急ブレーキがかかったこと」
「気笛が鳴っていたこと」
の証明をもらえと、車掌や運転士は徹底的に叩きこまれます。
この証明を私がいた会社では「現認証明」と呼んでいました。
事故があれば運転士は車外で処置を行いますが、周辺で事故を見ていた人がいれば、
「急ブレーキで止まったことと、気笛が鳴ったことだけを証明してほしい」
とお願いして回ります。
氏名と住所、電話番号だけを聞き、事故関係の書類には証人として名前を記載します。
ひと段落ついたころに会社の関係者が、お礼の品を持ってお礼にうかがって終了という感じですね。
書類に名前を記載されるのはイヤ……、と思う人がいてもおかしくはありませんが、名前を書くだけで警察からの問い合わせなんてありませんし(これまでそのようなことは聞いたことがない)、特に迷惑になるようなことはありませんので、もしも乗務員が証明を求めてきたら協力してください。
私がいた会社だと、お礼の品は菓子折りと非売品のグッズでした。
運転士は事故の処置が大変で現認証明を取り忘れることが無きにしも非ず……、なので車掌は車内の旅客に同様の証明の協力を求めます。
ただ今回の上信電鉄はワンマン運転を行っているので、運転士が処置を行った後に車内の旅客に「現認証明」を求めていたら状況は違っていたでしょうね。
運転士の見習中ですが、お客さんを乗せて駅間を走行しているときに師匠が突然、
「エマ!」
と叫ぶことがありました。
エマとは非常ブレーキの英訳 emergency brake から取ったワードで、私がいた会社ではごく普通に使う言葉です。
師匠のエマ!という言葉に反応できるかどうかを試しているのですが、師匠を信頼しておれば躊躇なく非常ブレーキを投入しますし、少しでも疑いを持っていたら、
「え? エマですか?」
みたいな反応をしますので、非常ブレーキの投入が遅れます。
それにもう一つ、終端駅とは違い走行中の本線路上での非常ブレーキ投入の際には必ず短急数声の気笛の吹鳴が求められていて、非常ブレーキ投入と同時に気笛を鳴らすことができるのか、これも試されていました。
私も運転士の指導員をしていたときには何度か試してみましたよ。
そうやって非常ブレーキの投入と気笛の吹鳴はセットであると、体に染み込ませるように教えられるはずですから、踏切上に人を認めれば非常ブレーキの投入と同時、もしくは少し早めに気笛を鳴らして当然なんですよね。会社によってはそこまで教育をしていないのかもしれませんが、
私としては今回の件で気笛を鳴らしていないとは到底考えられないのですが、こうして現実に書類送検にまで至っていることを思うと、もう第4種踏切や勝手踏切は閉鎖してくれとしか思えません。
第4種踏切すべてに警報器や遮断機を設置して維持する余裕が社局になく、行政も口しか出さないのならば閉鎖以外に手はないとしか思えないんですよ。
または第4種踏切を統合して数を減らすとか、とにかく無くすまたは減らすしかないだろうなと。
もちろん運転士という職業柄から見ているわけで、その踏切を日ごろから利用している地元の方の利便性は著しく悪化しますが、運転士の身の安全を考えればそうとしか思えません。
何だかいろいろ考えさせられたり、思い出したりする一件です……。