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軌道内作業を行っている作業員に対する警笛の省略

運転士
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繰り返される触車災害

2006年1月24日、JR伯備線の根雨駅~武庫駅間で保線作業を行っていた作業員が特急スーパーやくも9号と接触、3人が死亡し2人が負傷するという惨事が起きた。

 

伯備線でのこの事故は、当該列車が新幹線との連絡のために15分ほど延発していたことは輸送指令から作業責任者に伝えられていたが、すでに通過したものと勘違いしていた。
同路線は単線ですでに特急スーパーやくも9号は通過したと勘違いしていたので、見張員を逆方向の上り列車に対する監視位置に配置させた。

事故の概要はこのような感じです。

 

この記事は2022年1月に書いたものですが、軌道内作業時の触車災害は一向に減らず、2024年12月10日の未明に東海道線でレール溶接中の作業員が貨物列車に接触して死亡する事故も起きています。
原因は執筆の時点では分かりませんが、上り線路のレール溶接をしていて下りの貨物に接触したようですから、下り線路に接近しすぎていたのか、見張員は正しく配置されていたのかなど原因の究明と対策が待たれるところです。

 

 

作業員の安全確保の方法

私が勤務していた会社では軌道内作業を行う場合には、作業個所から原則400m離れた位置に作業標識を掲出し、運転士は標識を確認すると警笛を鳴らすことになっていました。
単線の場合には作業個所の上下両方向に作業標識を掲出し、上下両方向に見張員を配置。
曲線部などでは必要に応じて複数の見張員を配置するという決まりになっていましたし。

保線作業の場合は作業個所が移動することも少ないので、わりとこのルールは守られていたのですが、これが電気や通信関係の作業となると移動作業となる場合が多く、駅間のどこかで作業をしていることを表すために、作業標識はホーム端に掲出されていました。
※単線の場合は両方の駅に掲出

運転士側も駅間のどこかでの作業をしていると認識できるので、どこかに作業員がいるはずと思って運転するのでそれはそれで特に問題はありませんでした。

そして見張員を見つければ警笛を鳴らし、その警笛を受けて見張員は作業員に合図を出して退避させる。
退避が完了すれば運転士に退避完了の合図を送ってくるので、運転士は軽く1回短く気笛を鳴らす。
私が在籍していた会社では、こういう手順で安全確保を行っていました。

 

 

騒音対策と経費のカット?

私が運転士をしていた晩年頃、おそらく2010年以降ですが、この作業と作業員に対する警笛や気笛による合図が、沿線住民からの騒音に対するクレーム増加によって廃止されることになりました。
工事をしている間はずっと気笛を鳴らされるのですから、沿線にお住まいの方にすれば当然うるさくてたまったものではないから、気持ちは本当に分かります。
会社としても、見張員がきちんと仕事をしていれば問題ないという理論で押し切られた形です。

 

警笛をまだ鳴らしていた時代のことですが、警笛に気付いて電気か通信系の移動作業を行っていた作業員は、振り返ってこちらを見て運転士に対して退避完了の合図を送ってきた。
ところがその合図を送ってきた作業員の退避場所が悪く、列車に接触して死亡するという事故が起きたことがあります。
運転士にしても合図を送ってきているから退避できているとの認識があったので、非常ブレーキを入れたのは接触する本当に間際だった。
※監督官庁には報告したと思いますが、公にはなっていない事故だと思います
私より少し年下の運転士でもうベテランの域に入っていましたが、駅や踏切での人身事故には何度も遭遇していつも平然とした顔をしていたけど、この時の事故の後はさすがに落ち込んでいたのが印象深かった。

 

あと1カ月ほどで作業員に対する警笛を省略するという時期に、私は作業員との接触を避けるために非常ブレーキを入れたこともあります。
この時は私は上り優等列車を担当していて、下りの軌道内にいた保線関係の作業員2名がフラっと線路内へ入ってこようとしたんですよ。私は警笛を鳴らしたしこちらを見ていたように思ったけど、実際には自分たちへの警笛だと思わず、それに接近してくる列車が見えていなかったのかな。

こういう状況があっても作業現場では警笛を鳴らすなとの決まりが実施され、その決まりに背いて従来通りに警笛を鳴らした運転士は口頭注意の処分を受けるなんてこともありました。

 

それにプラスして見張員の配置数がどんどん減らされていきました。
それまでは曲線部分や高い壁が設置されるなどで一人の見張員では安全が担保できない工事や作業の場合、必ず複数の見張員がいたはずなのに。
数カ所やぐらを組んで高い位置で列車接近を見張ったり、電着炎管のスイッチを入れる係とかかなりいたはずですが……。

軌道内作業を行っている方々の安全を守るという点からいえば、他社の事故とは言え伯備線の事故は教訓になるものだったわけですが、残念ながらクレームと経費カットに負けて教訓を生かさないほうに流れてしまったことは、本当に残念だなと思いながらハンドルを握る晩年の運転士生活でした。



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