爆破予告の電話
私がまだ車掌だった昭和の50年代(1980年代)の話ですが、今考えても信じられないほど怖い指示を運転指令が出したことがあります。
どの駅に電話があったのかは知りませんが、とにかく駅長所在駅に電話がありました。
「〇〇駅を〇時〇分に出発する電車に爆弾を仕掛けた!」
該当する列車は優等列車で、この爆破予告の電話があったときは始発駅を出発してすぐです。
ふつうならば最寄り駅に臨時停車させてお客さんを全員避難させ、それと並行して警察に捜索をお願いするものです。
運転指令はすぐに、
「〇〇列車は次の〇〇駅に停車せよ!」
この無線を何度か繰り返して叫んでいました。
ただしなぜ臨時停車しなければいけないのかは乗務員に通告されていません。
私は別の列車に乗務中で、爆破予告のことは翌日になってから知りました。
ドアの開扉を認めなかった運転指令
運転士は指示通りに停車させて、運転指令へ無線で報告します。
「ただいま指示通りに停車しました」
運転士からの報告に続き、運転指令は当該列車の運転士に対して、
「ただいまから係員によって車内の捜索が行われますので、そのまましばらく抑止となります」
時間は夜8時すぎで会社帰りの人でごった返していた車内に、大勢の係員(助役など)が乗務員室から入っていきます。
当然ですが車内は騒然となりますし、車掌には何があったのかを聞きにお客さんが殺到したと思います。
車掌は運転指令に対して、
「降りたいと希望される乗客がいますが、ドアを開けて対応してもよろしいですか?」
理由も告げられずに臨時停車させられ、係員がドッと車内へ入ってきた。
お客さんが不安がるのは当然のことですし、とにかく降ろしてくれ!って思うことはふつうのことですよね。
ところがこの時の運転指令は、
「あなたの列車は〇〇駅は停車駅ではありません。通過駅ですのでドアを開けないでください。旅客を乗降させてはいけません」
この時乗務員には爆破予告のことは一切告げられていませんし、他の列車に乗務していた私も何も知りません。
車内を係員が見回ったけども不審物は見つからず、大勢の係員の大半はこの駅で降りていき運転再開となったのでした。
爆破予告はなかったことに?
爆破予告があった列車を担当していた乗務員は、乗務区に戻ってきて助役にいろいろと尋ねます。
何があって臨時停車させられたのか。
なぜ大勢の係員が車内へなだれ込んできたのか。
当然ですよね、何の説明もなく臨時停車させられ、不安に思ったお客さんから降ろしてほしいと願い出てきても、頑として開扉することを運転指令は認めなかったですし。
この時に初めて、担当列車に爆破予告があったことを聞かされたのです。
この時はいたずらだけで済んだので良かったのですが、本当に爆弾が仕掛けられていたらどうなっていたのか。
多数のお客さんや乗務員に相当な被害が出てもおかしくなかったはず。
なのに本来は通過駅なのだからドアをを開けるな!なんて指示を平気で出す運転指令。
私は直接は見ていなかったのですが、担当していた車掌は烈火のごとく怒り、このあとの乗務を拒否して帰宅したと聞きました。
労働組合もさすがに問題視し、組合の機関紙にも詳細を書いたことで社内でもかなり問題にはなったのですが、この当時ってマズいことは一切公表していませんからすべては闇から闇へ。
闇に葬られましたから誰も処分されることもなく、本当に何もなかったように扱われました。
これが私が所属していた会社の運転指令が犯した最大のミスです。