今でも忘れたころに報道される、雨天時の過走(オーバーラン)ですが、一般的に編成が長いほうが滑走は起きにくいとされています。
運転士をしていた頃に超ベテランさんに聞いたところでは、先頭から3~4両目あたりまでは特に雨の影響を受けやすく、ブレーキをかけてもほとんど利かないことがあります。
今は短い編成が多いので雨による影響をもろに受け、運転操作には気を遣うでしょう。
また逆に雨のために電気ブレーキ(発電ブレーキや回生ブレーキ)が一気に車輪の回転を止めてしまう状態で空気ブレーキが作動し、車輪が回転しないままブレーキが動作し続けることでレール上を滑っていく滑走状態にもなります。
※スキットとかスキッドと呼んでいました
※またスキットによって車輪の一部に傷が入り丸みが失われる状態をスキット痕と呼ぶことも
最近の車両は滑走状態になれば滑走検知装置によって滑走を検知し、フラット防止装置(アンチロックブレーキ)が動作してスキットを防止するようにもなっています。
私は運転士時代にフラット防止装置が付いた車両を担当したことはありませんので、動作するとどのようになるのか体感したことがありません。
車と同様だとすると、滑走しそうになるとブレーキが自動的に緩まったり利いたり瞬時に繰り返して、ゴゴゴゴって感じの音がするのですが、電車でも同じような感じなのでしょうか。
※編成の一部にフラット防止装置が付いた車両は担当したことはありますが、あまり効果は実感できず……。
雨天時の滑走で過走すれば会社側は、
「雨が強いときには手前からブレーキをかけたり強さを調整したりするなど改めて指導したい」
なんて声明を必ず出しますが、実際のところ上司に指導されたからといって雨天時の運転が上手になるわけもなく、結局はどれだけ経験してどれだけ頭を使って運転して、習得できるかにかかっているのですが。
雨が降れば空転して走りにくくなるし、ブレーキも利きが悪くなる。
今は車両に様々な装置が装備されていて、あまり深く考えなくてもそれなり運転できるようになっていると思います。
あまりにも車両任せの運転ばかりしていたら、装置でカバーできない状況になった時にミスっちゃうと思うのです。
例えば晴れの日に、通常はブレーキ5ステップで止めるところを4とか3ステップで止める練習をしておきます。
通常の制動距離よりかなり長くなりますが、それを習得しておけば雨天時に応用が利くわけです。
力行だって常にフルノッチで出発するところを、低いノッチから順に刻みながらノッチアップする刻みノッチで運転するなど、晴天時に雨天時を想定して乗務します。
コツが掴めれば多少は遅れるものの、雨天時でもそれほど苦にせず乗務できるのですけどね。
今は運転しやすい環境が整っているし、各装置を最大限に使用して運転するのが当然だと思います。
でもたまにで良いから、晴天の閑散時に少しだけ雨天対策の習熟運転をしておけば、いざという時に役に立つと思うのですが……。
雨天時の運転のことを書いているので……。
鉄道は車輪もレールも鉄でできており(厳密には100%鉄ではないでしょうね)、普段は車両の重みもあって特に問題なく走行します。
ところがレールや車輪に水や油が付いてしまうと、摩擦力が低下することで空転します。
雨の場合には特に降り始めの時に空転が頻発します。
これはレールなどに付着した油が浮いてくることによって、極端に摩擦係数が下がってしまうことで起こるわけです。
油は車両に付着しているものもあれば、レールに塗布されているものもあるし、葉っぱやごみなどいろいろな物から付着するのかなと思っています。
雨が土砂降りになってくると、レール踏面に浮いた油が流されてしまうことで降り始めの時より空転がマシになります。
さすがに晴天時のように一気にノッチを入れれば空転しますが、刻みノッチでゆっくり入れていけば意外に普通に走ってくれます。
1日中降り続く場合やかなりの豪雨の場合、本当に拍子抜けするくらい普通に走ってくれることも多いです。
ブレーキに関しても同じようなことが言え、雨の降り始めの時は滑走しやすく、土砂降りになってくると意外と素直にブレーキが利くのです。
雨の降り始めなんて、酷い車両は本当に軽くブレーキを当てただけで速度計の針が一気に0キロを指すこともありますが、土砂降りになるとよほど一気に強いブレーキをかけない限りは滑走もしにくかったです。
ただし、ブレーキに関してはこの法則に当てはまらない車両もあって、そういった要注意の車両は運転台周りに“雨天時注意”とか“雨激甘”なんて落書きがありました。
※最近は乗客から見えるところへの落書きが厳しく制限されているという話も聞きます……。
運転士をしていたころは雨の降り始めは空転がひどいものの、ある程度雨が降ってくれればレールや車輪に〝雨がなじんで〟くれて、空転しなくなるという言い方をする人が多かったです。
水が鉄になじむなんてことは考えられないのですけど、そうした言い方が少し前までは残っていましたし、実際に運転していても
「だいぶ雨になじんできたな」
なんて自分でも言いながら運転していました。